燃費などとは異なり、数値化することが難しく、個人差がある「車の乗り心地」
例えば、ハイブリッド車や電気自動車のように静かで、安定感がある乗り心地がいいという人もいれば、一方でスポーツカーのようにやや硬めの座り心地がいいという人もいたりします。
そんな好みが分かれる車の乗り心地ですが、購入してから走行距離や車歴を重ねる度に、経年劣化などが積み重なったりすることで、その乗り心地が徐々に失われていってしまうという点では、共通しています。
そこで、今回は自動車業界の片隅で働く筆者が「最近、車の乗り心地が悪い!」と感じている方のために、乗り心地が悪化する原因やそれを改善する費用などについて、まとめてみたいと思います。
早速、見ていきましょう。
車の乗り心地の症状と関連するパーツ
細かいパーツまで含めますと、数万点にも及ぶパーツによって構成されている現代のクルマ。
具体的に、車の乗り心地が悪化した場合、どういったパーツに不具合が出ているのかということを症状別に見ていきたいと思います。
症状 | 考えられる原因 |
---|---|
ふわふわしている・ゆらゆらする | ショックアブソーバーの劣化(オイル漏れなど)・アッパーマウントの劣化・各種ブッシュ(ゴム類)の劣化や摩耗など |
突き上げ感・ゴツゴツする感じ | ショックアブソーバーの劣化(オイル漏れなど)・アッパーマウントの劣化・タイヤの劣化(空気圧低下)など |
揺れ・ふらつき | ショックアブソーバーの劣化(オイル漏れなど)・アッパーマウントの劣化・タイヤの劣化(空気圧低下)など |
微振動・上下振動・ガタつき | ボディ剛性の低下・アッパーマウントの劣化・各種ブッシュ(ゴム類)の劣化など |
歪み・ザラザラする | シートの劣化・ボディ剛性の低下など |
<参考>音がうるさい・異音が出る | サスペンションのトラブル・タイヤの劣化・エンジントラブル・オルタネーターの故障・エアコンの故障など |
<参考>クーラー・暖房の効きが悪い | コンデンサーの故障・コンプレッサーの故障・ガス切れやガス漏れ・内部圧力の異常(ガスの詰まり)・センサーの不具合など |
もう少し詳しく見ていきましょう。
〇ショックアブソーバーの劣化やトラブル
画像参照/THKリズム株式会社
ショックアブソーバーは、文字通りshock(ショック)をabsorber(緩和)するためのパーツで、クルマの乗り心地のカギを握っていると言えるほど、極めて重要な存在です。
そして、「なんか最近、車の乗り心地が悪化したかも・・・」という場合、このショックアブソーバーが劣化している、あるいはトラブルを抱えているというのが最もよく見られるケースの一つになっています。
実際には、ショックアブソーバーが劣化すると「オイル漏れ」や関連パーツである「コイルスプリング」の摩耗、「スタビライザ」や、それを支える「アッパーアーム」「ロアアーム」などにもトラブルを引き起こし、減衰力(※)が落ちたりすることで、ハンドル操作が不自由になったり、車両がふらついたりといったことが起きます。
※減衰力とは、コーナーを曲がるときなど、運動方向とは反対向きに働く力のこと。減衰力が大きいと、ばねの働きを抑えてゴツゴツした乗り心地に、逆に減衰力が小さいとフワフワした感じに。
なお、乗り心地の悪化とともに、下記のような異音が出ている場合、ショックアブソーバーの劣化やオイル漏れが原因となっている可能性がさらに高くなります。
症状 | 考えられる原因 |
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異音「ギシギシ」「キシキシ」 | ショックアブソーバのオイル漏れ ブッシュ(ゴム)の劣化や硬化 コイルスプリングのねじれによる金属音 ボディのゆがみ |
異音「カタカタ」「コトコト」 | ショックアブソーバの劣化 ロアアームのジョイントやボルトの摩耗 スタビライザーリンクの故障 サスペンションアームのゆがみ ブッシュ(ゴム)の劣化や亀裂 |
異音「ギコギコ」「キコキコ」 | ブッシュ(ゴム)の劣化や亀裂 ショックアブソーバの劣化 ロアアームのジョイントやボルトの摩耗 リンクロッドのゴムに亀裂 スタビライザの損傷 |
〇アッパーマウントの劣化・オイル漏れ
路面から受ける衝撃の吸収だけでなく、走行安定性や車体の柔軟性を維持し、車の乗り心地を支える役割を果たしている「アッパーマウント」
画像出所/CUSCO
アッパーマウントは他のブッシュ同様、ゴムやウレタンなどでできている部分が多い”消耗品”タイプのパーツで、新車登録から約10年、走行距離10万キロ前後が一つの交換の目安となっている他、ドライバーの運転の仕方や走行環境によっては、さらに劣化が早くなる可能性があります。
また、一般的な乗用車で最も普及しているサスペンションのタイプである「ストラットタイプ」は部品点数が少なく、コストも低価格ですが、反面、アッパーマウントの劣化が早いといった特徴もあります。
悪路などを走行したときに、以前に比べて、突き上げ感やゴツゴツした感じがあるという場合は、アッパーマウントに原因があるというケースは少なくありません。
〇タイヤの劣化・摩耗
車が走る・止まる・曲がるといった動作をサポートし、四六時中1~2トン近くの車体を支え続けているタイヤ。
ご存知の通り、タイヤは代表的なゴム製パーツで、最も経年劣化が激しいパーツの一つでもあります。
そんなタイヤの劣化や摩耗による空気圧の低下は、車の乗り心地にも大いに影響を与えておりまして、空気圧が下がることで、車の突き上げ感や揺れ・ふらつきの原因になったりします。(空気圧の低下を放置しておくと、最悪、パンクという可能性も・・。)
車のタイヤの寿命は一般的なもので約3年~5年程度が目安と言われていまして、徐々に摩耗したり、空気圧が下がっていきますが、また、それらに加えて悪路を走行したり、走行中に石がサイドウォールにぶつかったりすることで、タイヤが損傷し、空気圧が急激に下がり、それに伴って乗り心地が急に悪化するといったケースもあります。
なお、稀に「タイヤを新品に交換したばかりなのに、乗り心地が悪くなった気がする・・」ということがあったりしますが、その場合は、空気圧以外に、ホイールとの相性や車体との相性がそもそもよくないといったケースがありますので、タイヤ選びは慎重にしたいところです。
〇ブッシュ(ゴム製)の劣化・摩耗
自動車が曲がったり、止まったりするときには、重量力、遠心力など様々な負担がかかりますが、その力を吸収し、衝撃を緩和するために欠かせないのが、ブッシュ(ゴムやウレタン)になります。
画像出所/CUSCO
ブッシュもその性能や価格は様々ですが、”消耗品”であるという点では、アッパーマウントやタイヤなどと同じで、年数を重ねるたびに経年劣化はどうしても避けられません。(走行距離や普段の乗り方でも消耗スピードは変化します)
〇車のシートのゆがみやザラザラ
車のシートは非常に頑丈な作りになっているために、通常の使い方では、ほぼ”壊れる”といったことはありませんが、ただ、それでもシートにトラブルがないというわけではありません。
例えば、車を障害物にぶつけたり、あるいは他人にぶつけられたりしたことがきっかけで、シートにゆがみが出て、それが原因で乗り心地が悪化するというケースがあったりします。
実際にどんなケースがあるのかということを下記にまとめましたので、ご覧ください。
症状 | 考えられる原因 |
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ギシギシときしむ | シートフレーム・シートスプリング・シートベルトの不具合 |
ガタつき | シートレールのロック部・シートフレームの故障や劣化 |
ザラザラ | シート素材の劣化 |
なお、高級車などで採用されている本革シートは、日本のような高温多湿な国では布に比べると劣化しすく、比較的、素材面で乗り心地が悪化しやすいという特徴があります。(レクサスなどのように、その対策として本革シートに特殊な加工を施している車もあります)
〇ボディのゆがみによる振動や異音
1992年の市販以来、今では大衆車から高級車まで幅広い車に採用されているモノコック構造。
衝撃吸収力が高かったり、剛性面で優れていたり、乗り心地が快適であるというメリットがある一方で、「衝突」や「変形」には弱いという特徴があります。
そして、衝突や変形により、一旦、ボディがゆがんでしまうと、運転する度に不快な振動を感じたり、まっすぐ車が走らずフラフラしてしまうといった症状が出てきます。
乗り心地の悪さや振動がさらに悪化すると・・
ここまでは、車の乗り心地が悪くなる様々なケースを見てきましたが、ここからは、そうした乗り心地の悪化が深刻になる「レア・ケース」についても見ていきたいと思います。
例えば、乗り心地の悪化で最もよく見られるショックアブソーバーやタイヤの劣化は、ハンドルやエンジン、ブレーキなどに比べると、異常が見つかったからと言って、直ちに修理や交換が必要という”緊急性”があるわけではありません。
しかし、だからと言って、異音や振動を放置しておくと事故を招くような重大なリスクがないわけでは、決してありません。
例えば、異音や振動の問題が悪化しサスペンションにも異常をきたすと、スタビライザのリンクロッドのブーツに亀裂などの深刻な損傷が発生して、中の液状潤滑油(グリス)が流れ出し、そこに雨の日の運転などで、水分が浸入したり、路面の砂粒等が入り続けていると、最悪の場合、ボールジョイントが磨耗、劣化し、抜け落ちることが考えられます。
そうすると、ミニバンのような車種の場合、長いスタビライザのリンクロッドが、車輪や地面に引っかかって、大きな事故につながる可能性も否定はできません。
現実的には、リンクロッドのブーツが損傷してもポールジョイントがすぐに落ちるというわけではありませんが、走行する路面の状況や運転の仕方などによっては、可能性がないとは決して言い切れませんので、足回りの異音や振動もできる限り、早期解決することが望ましい対処と言えるでしょう。
それ以外でも、数千円で済むオイル交換を怠り、アクセルを踏む度に異音や振動が発生しているにも関わらず、運転を続け、最終的には高速でアクセルを思いっきり踏み込んで、エンジンが故障し、爆音とともに車が動かなくなってしまうというケースもあったりします・・・。
また、そこまで深刻な事態にならない場合でも、どこかに故障を抱えたまま走行することは、車が本来持っている動力性能を引き出せず、燃費の悪化などにも繋がったりします。
車の乗り心地の改善策と修理代金や交換費用について
では続いては、乗り心地が悪くなったと感じたときの改善策について見ていきたいと思います。
まず、「あれ?なんか違和感がある」と感じたときは、例えば、異音が聞こえた箇所(エンジン?足回り?など)や振動が起きた状況などを確認し、メモなどに残しておきましょう。
後で、ディーラーや信頼できる整備工場で状況を正確に伝えるために必要になりますし、プロのスタッフであれば、どんな状況でどんな音や振動が出るかが分かれば、ある程度まで、原因を特定できる可能性が高くなるからです。
また、より正確な原因究明をしたいという方は、メーカー専用の検査機器がある修理工場であれば、OBD2などにより内部データによるエラーなどを検出できますので、メーカー専用の検査機器がある工場やディーラーへ依頼した方がいいでしょう。
では、続いて乗り心地を改善するときの修理代金や交換費用をケース別にご覧ください。
修理箇所 | 料金の目安 |
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オイル交換 | 1,000円~3,000円前後 |
オルタネーターベルト交換 | 1,000円~ |
ベアリング交換 | 1,500円~ |
ステアリングラックブーツ交換・トーイン調整/1本あたり | 8,000円~ |
ショックアブソーバー交換(リヤ・フロント)/1本あたり | 8,000円~ |
サスペンション交換(国産車) | 25,000円~ |
サスペンション交換(輸入車) | 35,000円~ |
スタビライザー交換 | 10,000円~ |
ブッシュ交換一式 | 25,000円~ |
ドライブシャフト・ブーツ交換 | 9000円~ |
コンプレッサー交換 | 50,000円~ |
ATミッション交換 | 200,000円~800,000円 |
エンジン交換 | 400,000円~1,000,000円 |
工賃 | 別途 |
どれか一つで済む場合もありますし、また、上記の幾つかが重なる場合もありますので、修理代金や交換費用は、その原因によってかなり開きが出ることがあるというのをお分かり頂けるかと思います。
また、一部の輸入車など車の種類や部品によっては、交換に必要な工具に特殊な工具を要求されたりなど、部品よりも技術料や工賃の方が高額になるケースが少なくありませんので、上記はあくまで参考値としてご覧頂ければと思います。
なお、エンジン、ミッションの交換に発展する場合は、リビルト部品や程度の良い中古部品などで交換をしたとしても、それでも修理費用はかなりの高額になることを覚悟しておく必要があります。
さらなるトラブルを招く前に・・・
中古車の資産価値に大きな影響を与えるクルマの「修復歴」
実は筆者は過去に、度重なる故障やトラブルが買取価格の大きな下落を招くことがあったことから、最近は修理をする前に資産価値を確認するようにしています。
特に筆者が自分の愛車の価値を"こっそり"と知るために重宝しているのが、匿名査定の「UcarPAC」という無料サービス。
独自の仕組みから予想外の高値がつくことも多く、これまで車の買い替えのときには、何度も助けてもらいました^^
高額の修理代を払って"修理する前に"試してみるだけの価値はあります。
参考サイト/「UcarPAC」
まとめ
「最近、車の乗り心地が悪い!・・突き上げやガタつきなど車の乗り心地が悪化する原因や対策のまとめ」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
自動車の最も重要な要素である「車の乗り心地」に不具合が起きるというのは、走行距離や年数次第ではありますが、広範囲にわたって不具合や故障が発生している可能性は決して低くはありません。
走行距離が長くなっていたり、発売からかなりの年数が経過している車の場合、「寿命」を迎えている可能性もありますので、修理費用にもよりますが、車の買い替えなども天秤にかけながら、冷静に検討したいところです。