車の「走る・止まる・曲がる」といった動きをする度にハンドルやシートから伝わってくる振動や感触。
人間が車に乗っていて感じる、いわゆる「乗り心地」や「車体のバランス」、「操縦安定性」などをコントロールしているのが、今回取り上げるサスペンションになります。
本記事では、サスペンションに異常や故障が起きると、どんな異音や症状が出て、そして、それを修理したり、交換するのにどれくらいの費用がかかるのか、また問題を放置しておくと、どういう危険性があるのかなどについて説明したいと思います。
サスペンションの異音の原因と症状
先ほど、サスペンションは車の乗り心地をコントロールしているということを説明させて頂きましたが、実はサスペンションと一口に言いましても、その種類はかなり多く、また、サスペンションそのものも、一つのパーツを指しているわけではなく、多くの部品によって構成されています。
例えば、サスペンションを構成しているパーツには、車体とタイヤの間に取り付けられ、路面からの衝撃を和らげる役目を果たしている「コイルスプリング」や「ショックアブソーバ」、自動車がコーナーなどを曲がるときに、車体が傾こうとする力を抑えて車の安定性を保つ「スタビライザ」、そして、それを支える「アッパーアーム」「ロアアーム」などがあります。
また、高級車と軽自動車で乗り味が全く異なるように、車のタイプにより採用されているサスペンションの種類も異なっています。
サスペンションの種類 | 特徴 |
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マルチリンク | 高い走行安定性 レスポンスが良い 構造が複雑でコストが高い 重量が重い |
ダブルウィッシュボーン | 高級車やスポーツカー等で採用 乗り心地が滑らか 部品点数が多く、コストがやや高め |
トーションビーム | 軽自動車やコンパクトカーなどで採用 サイズが小さくて費用が安い レスポンスはあまりよくない |
ストラットタイプ | 最も普及しているタイプ 部品点数が少なく軽量で価格が安い 乗り心地はノーマル アッパーマウントの寿命が短い |
ちなみに、値段の高いサスペンションだから頑丈で耐久性が高いというわけでもなく、むしろ上質な乗り心地を実現するために、複雑なパーツ構成にしていたり、柔軟性に優れたブッシュ(ゴム)を採用している車の方が、パーツ交換時期や寿命が短いということもあったりします。
高級輸入車などは、サスペンションにこだわっていることが多く、乗り心地が非常になめらかである一方、それだけ“繊細”な作りとなっているために”ガタ”がきやすいケースがあります。(もちろん、運転の仕方、走行環境などによっても変わってきます。)
では、それらを踏まえた上でサスペンションの異音の原因と症状には、どのようなものがあるのかについて見ていきましょう。
症状 | 考えられる原因 |
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異音「ギシギシ」「キシキシ」 | ショックアブソーバのオイル漏れ ブッシュ(ゴム)の劣化や硬化 コイルスプリングのねじれによる金属音 ボディのゆがみ |
異音「カタカタ」「コトコト」 | ショックアブソーバの劣化 ロアアームのジョイントやボルトの摩耗 スタビライザーリンクの故障 サスペンションアームのゆがみ ブッシュ(ゴム)の劣化や亀裂 |
異音「ギコギコ」「キコキコ」 | ブッシュ(ゴム)の劣化や亀裂 ショックアブソーバの劣化 ロアアームのジョイントやボルトの摩耗 リンクロッドのゴムに亀裂 スタビライザの損傷 |
サスペンションから異音が出る場合の最も典型的なケースとなるのは、ブッシュ(ゴム)の劣化や損傷、亀裂などになるかと思います。
ご存知の通り、タイヤがそうであるように、ゴムは何もしなくても経年劣化が進むパーツで、サスペンション内にあるブッシュは、車が走ったり、停まったり、曲がったりする度に摩耗し、そして、劣化や硬化が進んでいきますので、異音を起こす最も代表的な原因の一つになります。
また、そのブッシュの摩耗と前後して、よく起こるのがショックアブソーバの劣化や損傷です。
こちらも経年劣化が進むと、異音が出る原因となったり、“減衰力”が弱くなり、車の安定性が悪くなり、振動を感じたりといったことが起こります。
※減衰力とは、路面からの力を吸収し、制御する力のこと。これが弱くなると、振動を感じやすくなり、ひどい場合はクルマ酔いを引き起こす原因にもなる。
サスペンションの異常により事故を招く可能性もある?
サスペンションの役目は、車の乗り心地や安定性といったことを維持することにありますので、例えばハンドルやエンジン、ブレーキなどに比べると、異常が見られたからと言って、直ちに修理や交換が必要というわけではありません。
ただし、異音や不具合を放置しておくと事故を招くような重大なリスクがないわけでは、決してありません。
例えば、スタビライザのリンクロッドのブーツに亀裂などの深刻な損傷が発生して、そこから、中の液状潤滑油(グリス)が流れ出し、そこに雨の日の運転などで、水分が浸入したり、路面の砂粒等が入り続けていると、最悪の場合、ボールジョイントが磨耗、劣化し、抜け落ちることが考えられます。
そうすると、ミニバンのような車種の場合、長いスタビライザのリンクロッドが、車輪や地面に引っかかって、大きな事故につながる可能性も否定はできません。
現実的には、リンクロッドのブーツが損傷してもポールジョイントがすぐに落ちるというわけではありませんが、走行する路面の状況や運転の仕方などによっては、可能性がないとは決して言い切れませんので、サスペンションの異音や異常もできる限り、早期解決することが望ましい対処と言えるでしょう。
実際に、次に見ていく車検の保安基準でもサスペンションの損傷については、広範囲に割って定められています。
サスペンションの故障や異音を放置しておくと、車検が通らない?
では、続いてはサスペンションの損傷と車検について見ていきたいと思います。
まず、サスペンションからの異音やサスペンションが原因で起こる車の揺れなどがあるからと言って、車検が通らないということはありません。(むしろ、軽微な劣化などであれば、問題視されないことがほとんどです。)
では、どういったケースで車検が通らないかということを国土交通省が出している道路運送車両の保安基準から確認してみましょう。
道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2007.11.09】〈第三節〉第173条(緩衝装置) | |
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第 173 条の2 | ばねその他の緩衝装置は、地面からの衝撃に対し十分な容量を有し、かつ、安全な運 行を確保できるものでなければならない。この場合において、次の各号に掲げるばねそ の他の緩衝装置は、この基準に適合しないものとする。 |
第 173 条の五 | サスペンション・アーム等のアーム類、トルク・ロッド等のロッド類又はスタビラ イザ等に損傷があり、又は取付部に著しいがたがあるもの |
第 173 条の六 | サスペンション・アーム等のアーム類等のダスト・ブーツに損傷があるもの |
第 173 条の十 | ショック・アブソーバに著しい液漏れ、ガス漏れ若しくは損傷があり、又は取付部 に緩みがあるもの |
第 173 条の十一 | ショック・アブソーバが取り外されているもの |
サスペンションに関連する保安基準は上記の通りとなっていまして、ショックアブソーバ、トルク・ロッド等のロッド類、スタビライザ、アーム類のダスト・ブーツなど、かなり広範囲に渡って定められていることがお分かり頂けるかと思います。
いずれも著しい損傷や緩み、液漏れなどがあるケースとなっていまして、裏を返せば、サスペンションまわりで著しい損傷や緩み、液漏れなどがあるケースは、重大なリスクがあると判断されているとも言えます。
サスペンションの故障の対処法と費用について
サスペンションの故障の対処法ですが、その内容によっても、対処法と費用が異なってきます。
例えば、ショックアブソーバーとスタビライザ、シャフトブーツなど多くの部品交換となると、どこの業者に依頼するかにもよりますが(ディーラーや整備工場など)、工賃も含めて、100,000~200,000円近くの費用がかかることがあったりします。
修理箇所 | 料金の目安 (工賃を含む) |
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サスペンション交換(国産車) | 25,000円~ |
サスペンション交換(輸入車) | 35,000円~ |
スタビライザー交換 | 10,000円~ |
ブッシュ交換一式 | 25,000円~ |
フロントドライブシャフトASSY交換 | 15,000円~ |
フロントドライブシャフトブーツ交換/1本あたり | 10,000円~ |
ショックアブソーバー交換(リヤ・フロント)/1本あたり | 8,000円~ |
ステアリングラックブーツ交換・トーイン調整/1本あたり | 8,000円~ |
各種センサーなど電子制御機器の交換 | 50,000円~ |
ただ、最も標準的なブッシュ交換一式で済む場合は、20,000~30,000円程度の部品代と工賃で済むでしょう。
なお、独自仕様の輸入車のサスペンションの修理・交換では、特殊工具が必要だったり、交換パーツそのものが手に入りにくかったりして、費用は高くなりがちです。
また近年は車のパーツの電子制御化が急速に進んでいますので、例えばレーダーやセンサー、電子制御装置などの異常を伴っている場合は、修理費用は高額になることがあります。
サスペンションの寿命について
サスペンションは多くのパーツから構成されていますが、最も重要なバネについては、最近の車は20万キロ、30万キロ走っても何の問題もないということも決して珍しくありません。
一方、劣化や損傷が進みやすいショックアブソーバーやブッシュなどについては、クルマの使い方にもよりますが、純正品で5~10万キロ、社外品3~8万キロあたりが寿命の目安と言えるかと思います。
サスペンションの不具合は、異音などがあるケースは別として、見た目や感覚的には「寿命」に気づきにくいですが、不具合を放置しておくと、他の箇所でも車の消耗を進めてしまう可能性が高いので、定期的な点検が欠かせないと言えます。
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まとめ
「サスペンションに異音?!故障の原因と交換にかかる費用のまとめ」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
自動車業界の片隅に長年、身を置く筆者ですが、実はサスペンションの故障は車のトラブルの中でも、かなり”やっかいな”トラブルだと思っています。
なぜなら、サスペンションの不具合は、その構成パーツが多岐に渡ることから、修理・交換をした直後に、また、別の箇所に不具合や故障が発生してしまうという可能性が決して低くないからです・・。
特に走行距離が長くなっていたり、車の運転の仕方や運転していた環境などによっては、クルマそのものが「寿命」を迎えている可能性もありますので、修理・交換の見積もり費用にもよりますが、車の買い替えなども天秤にかけながら、冷静に検討したいところです。