エンジンの素材が変わったり、エンジンオイルの性能向上、パーツの進化などを背景に昔に比べて、その可能性はグンと減りつつある「オーバーヒート」
とは言いいましても、メンテナンスを怠っていたり、不意の突発的なトラブルに見舞われたりといった理由で現在もオーバーヒートが起こる可能性は十分にあります。
そこで、自動車業界の片隅で働く筆者がオーバーヒートの原因とその対処方法や修理費用などについて、まとめてみたいと思います。
早速、見ていきましょう。
自動車がオーバーヒートを起こす原因とは?
一昔前までは、暑い夏に自動車の冷却能力が低下することで、オーバーヒートした車が道路の路肩で立ち往生・・ということもよく見られましたが、近年はそうした状況を目にすることは、ほとんどなくなりました。
では、最近の自動車でオーバーヒートを起こす原因としては何が考えられるのかと言いますと、そのほとんどは「冷却装置」や「潤滑装置」のトラブルになります。
上記は、アクセルを踏んでからエンジンが始動するまでのざっくりとした流れですが、オイルと書いているところが「潤滑装置」、「水」と書いてあるところが「冷却装置」になりまして、冷却水などを循環させて、エンジンの過熱を防いでいます。
そして、冷却装置のトラブルは大きく分けて2つの原因に分かれています。
冷却系パーツのトラブル
経年劣化による摩耗、事故などによる損傷など、その原因は様々ですが、エンジンの冷却機能に欠かせない冷却系パーツに何らかのトラブルが発生することにより、オーバーヒートを起こすということがあります。
例えば、冷却装置として代表的なウォーターポンプがトラブルに見舞われた場合、冷却液を循環させることができないという事態を招いてしまい、結果、自動車がオーバーヒートを起こしてしまいます。
また、日本語で放熱器と呼ばれるラジエーターの劣化や損傷もよくあるケースの一つです。
画像出所/ラジエターの構造 -MonotaRO-
ラジエーターは冷却液を循環させ、冷却ファンとともに、大気中に自動車の放熱を行うという大切な役目を果たしておりまして、このラジエーターや冷却ファンに不具合が発生すると、オーバーヒートになる可能性は十分にあります。
また、エンジンのサポート役として極めて多くの役目を果たしているエンジンオイルのトラブルもよくあるケースの一つです。
エンジンオイルには、よく知られている潤滑機能や洗浄機能の他に「冷却機能」がありまして、燃焼室周辺で上昇した温度が、外側が外気にさらされているオイルパンに戻ることで下降し、結果的にエンジンを冷却するという機能を果たしています。
そんなエンジンオイルでトラブルが起きると、オーバーヒートの原因になりかねません。
実際に、国土交通省はメンテナンス不足によるエンジンオイルの劣化が重大なエンジントラブルを引き起こす可能性があることに対して注意を喚起しているほどです。
上記は、平成27年に起きた自動車の走行距離と火災情報の割合をグラフ化したものですが、走行距離が長くなればなるほど、その原因として「原動機(エンジン)」の割合が高くなっていることがお分かり頂けるかと思います。(その典型的な原因としてエンジンオイルの劣化があると考えられています)
これまで見たものを含めて、オーバーヒートのパーツ系トラブルでよく見られるケースを表にまとめましたので、下記を参考にしていただければと思います。
異音や症状 | 考えられる原因 |
---|---|
クーラント漏れ | サーモスタットの異常 ラジエーターキャップの不良 ウォーターポンプの不具合 ラジエーター及び周辺パーツの故障 |
クーラントの減りが早い | ガスケットの故障 ラジエーターキャップの不良 ウォーターポンプの不具合 ラジエーター及び周辺パーツの故障 リザーブタンクの異常 |
ラジエーターの異常 | ホース類の摩耗・経年劣化 アッパータンク・ロアタンクの破損 カシメの緩み ラジエーターキャップの不良 ラジエーターの錆 |
異常「カラカラ」「ガラガラ」 | ベアリングの故障 インペラ破損 サーモスタットの故障 エンジンの故障 |
異音「キュルキュル」 | ベルトの摩耗・劣化 プーリーの故障 |
異音「キィーン」「ウィーン」 | ベアリングの故障 インペラ破損 サーモスタットの故障 メカニカルシールの故障 |
水漏れ | シリンダのガスケット不良 メカニカルシールの摩耗・劣化 ベアリングの故障 |
異音「ガガガ」 | オイル不足 エンジン内部の不良 ミッションの不具合 カムシャフトやクランクシャフトのトラブル |
異常および振動「ガタン」「ガタンガタン」 | カムシャフトやクランクシャフトのトラブル ミッションの不具合 エンジンECU(電子制御回路)あるいは制御系パーツの異常 |
加速中に白煙及び焦げ臭い異臭 | オイル上がり |
※オイル上がり
自動車はメンテナンス不足を原因として様々な劣化が進みますが、中でも、ピストンリングがヘタってきたり、シリンダーが摩耗することにより、燃焼室にオイルが残ってしまう「オイル上がり」は重症の一つになります。
クルマを加速させる度に、焦げたような臭いとともにマフラーから白煙が上がるようになってしまいますと、対策としては、エンジンをオーバーホールするなど対策の選択肢が限られてきます。
また、症状によってはシリンダーのボーリングやピストン交換が必要になったり、 最悪、シリンダーブロックの交換なんてことも十分に有り得ます。
こまめにエンジンオイルを交換したり、クルマを大事に運転していれば、走行距離が長くなっても、この症状は基本的に起きないのですが、オイル交換を怠っていたり、品質の低いオイルを使ったりしていると、「オイル上がり」が起こります。
冷却系システムのトラブル
パーツ系のトラブルのほかに、近年の自動車ならではのトラブルと言えるのが、数々のソフトウェアやハードウェアを搭載したコンピューター・システムのトラブルです。
ご存知の通り、最近の自動車は数多くのセンサーを搭載しておりまして、中でも水温センサーやノッキングセンサーなどは冷却系システムでは重要な役目を果たしています。
センサーの種類 | 機能 |
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スロットルポジションセンサー | スロットル開度を検知するセンサー |
エアフロメーター | エンジンを電子制御する際の入力情報としてエンジンへの空気吸入量を計測する装置 |
車速信号 ジャイロセンサー 加速度センサ | 車両の速度を検出 |
バキュームセンサー | 吸気マニホールドの圧力(絶対圧)を電気信号として取り出し、コントロールユニットに入力する |
クランク角センサー | クランクシャフトの回転角を上死点基準で検出するセンサー |
吸気温センサー | エンジンが吸入する直前の吸気温度を検出するセンサー |
水温センサー | エンジンの冷却水温度を検出し、コントロールユニットへ信号を送るセンサー |
ノックセンサー | 異常燃焼のひとつである「ノック(ノッキング)」を検出するためのセンサー |
空気圧センサー | タイヤの空気圧の検出 |
そして、そんなセンサーのトラブルは、自動車のオーバーヒートの原因となったりすることがあります。
可能性としてはそれほど高いというわけではありませんが、高度に制御されたシステムトラブルの特徴として、修理・交換に時間がかかったり、費用そのものが高額になりやすいということが挙げられます。
オーバーヒートをすると車はどうなるの?危険性は?
オーバーヒートしたとき、まず最優先すべきは自動車の点検です。
アイドリングで自動車を冷やして・・というのは昔の話で・・、現代の車では、やめておいた方が無難です。
特に近年の自動車の中にはアルミニウムエンジンを採用しているケースも少なくないため、無理やりセルを回したりすると、エンジンそのものが壊れてしまいかねません。
ただ、自動車がオーバーヒートしたからと言って、車がもうダメになるかと言いますと、決してすべてのケースではそうなるわけではありません。
オーバーヒートの原因も軽症と重症のケースの2つに分かれます。
〇軽症の場合
各種ベルト・ポンプ・ラジエター・キャップ・ホース・オイル等を交換すれば、自動車はその後も問題なく使うことができます。
〇重症の場合
パーツを交換しても冷却装置が適切に機能しない場合、疑わしいパーツを順番に点検及び修理を行っていくことになります。
そして、シリンダーヘッドに歪みが応じたり、ヘッドガスケット抜けを引き起こしているといった重症の場合、ヘッドの分解や面研などを施して、修理にあたることになります。
この場合、かなりの高額の修理費用がかかることになり、またそれで完全に治ることが約束されるわけではなく、エンジンをまるごと交換したり、他のパーツにもトラブルの影響が及んでいる可能性も否定できません。
オーバーヒートした後の修理や対処法について
「自動車がオーバーヒートして、エンジンがかからない状態のときは、どうすればいいの?」という方のために、どんな方法が考えられるかを下記にまとめましたので、参考にしていただければと思います。
対応策 | 注意点 |
---|---|
JAFのロードサービス | 会員は実費のみ。非会員はサービスも有料。(エリアによっては現金払いのみ) |
自動車保険(任意)のロードサービス | 加入していれば実費のみ。ただし、翌年度以降の保険料に影響ある可能性。 |
整備工場などへの引き取り依頼 | エリア次第。料金や支払い方法は対応業者によって異なる。 |
〇JAFのロードサービス
ロードサービス大手の「JAF」に加入していれば、一般道路でも高速道路でもロードサービスは無料で対応が可能です。(その場で対応可能な修理であれば、実費だけは負担が必要)
ただ、加入していない場合は、作業料金や基本料金などが有料になってしまいまして、非会員の場合は、場所にもよりますが、数万円~の料金は必要になります。
しかも、エリアによっては「後払い不可」の地域もありますので、手持ちのお金が少ないときは手配をお願いする前に確認をした方がいいでしょう。
〇自動車保険(任意)のロードサービス
加入している自動車保険(任意保険)にロードサービスが付帯している場合は、それを利用することで、費用をかけることなく、車を移動させることができます。
修理点検にかかる費用に対して、保険を使うかどうかは本人次第となります。
なお、保険会社によっては翌年度以降の保険料に影響が出ることがありますので、その点は注意が必要になるでしょう。
〇整備工場などへの引き取り依頼
オーバーヒートになった自動車の車検満了日が迫っていたり、定期点検のタイミングであれば、整備工場へ車両の引き取りの依頼をお願いするという手もあります。
方法としては、カーセンサーなどで近くの車検屋さんの中から、「引き取り」可能な車検業者を検索して、引き取りに来てくれる業者を探すという流れになります。
参考/カーセンサー
また、カーセンサーでは、クレジットカード決済が可能な業者も探すことができますので、手持ちの現金に不安がある場合にも重宝します。
なお、車検は車検証があれば、自動車税などを滞納していなければ、他府県でも受けることができますので、遠出でオーバーヒートした場合の対策としても有効です。
ちなみに車検の有効期間の満了日を確認するには、下記の画像の赤枠で囲んだところを確認しましょう。
車検は、新車登録を行った年から3年、それ以降は2年ごとに有効期間の満了日を迎え、更新は満了日の1ヶ月前から受けることができまして、また、満了日が1ヶ月以上前であっても、次の車検満了日が早くなるだけで車検そのものは受けることが可能です。
オーバーヒートした後の修理費用について
では、続いては車がオーバーヒートした後の修理にかかる金額について見ていきたいと思います。
修理箇所 | 料金の目安 (工賃を含む) |
---|---|
オイル交換 | 1,000円~3,000円前後 |
タイミングベルト交換 | 10,000円~ |
ウォーターポンプ交換費用 | 10,000円~30,000円 |
ベアリング交換(ASSY) | 15,000円~ |
スパークプラグ交換 | 10,000円~ |
テンショナー交換 | 10,000円~ |
ラジエーター交換 | 50,000円~ |
ドライブシャフト・ブーツ交換 | 9000円~ |
サーモスタット交換 | 20,000円~ |
エンジン交換 | 400,000円~1,000,000円 |
各種センサーなど電子制御機器の交換 | 50,000円~ |
工賃 | 別途 |
ご覧の通り、オーバーヒートした車の修理や交換にかかる費用は、単体のみの修理交換で終わるのか、あるいは、関連するパーツも修理交換する必要があるのかということで、かなり変わってきます。
また、例えばラジエーターなどを”修理する”という場合は、ASSY、つまり、ラジエーターそのものを新品(サードパーティー製品含む)または、リビルド品などで全交換という形が一般的です。
また、一部の輸入車など車の種類や部品によっては、交換に必要な工具に特殊な工具を要求されたりなど、部品よりも技術料や工賃の方が高額になるケースが少なくありませんので、上記はあくまで参考値としてご覧頂ければと思います。
なお、エンジンが損傷していたり、最近の自動車に多数搭載されているセンサーやそれを司るコンピューターの修理・交換に発展する場合は、リビルト部品や程度の良い中古部品などで交換をしたとしても、それでも修理費用はかなりの高額になることを覚悟しておく必要があります。
さらなるトラブルを招く前に・・・
中古車の資産価値に大きな影響を与えるクルマの「修復歴」
実は筆者は過去に、度重なる故障やトラブルが買取価格の大きな下落を招くことがあったことから、最近は修理をする前に資産価値を確認するようにしています。
特に筆者が自分の愛車の価値を"こっそり"と知るために重宝しているのが、匿名査定の「UcarPAC」という無料サービス。
独自の仕組みから予想外の高値がつくことも多く、これまで車の買い替えのときには、何度も助けてもらいました^^
高額の修理代を払って"修理する前に"試してみるだけの価値はあります。
参考サイト/「UcarPAC」
まとめ
「オーバーヒートで車が緊急停止!オーバーヒートの原因とその対処法・修理費用などのまとめ」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
自動車の安定した走行に欠かせないエンジンの冷却装置に不具合が起きるというのは、走行距離や年数次第ではありますが、他の箇所にも不具合や故障が発生している可能性は決して低くはありません。
走行距離が長くなっていたり、発売からかなりの年数が経過している車の場合、「寿命」を迎えている可能性もありますので、修理費用にもよりますが、車の買い替えなども天秤にかけながら、冷静に検討したいところです。